前の関連記事:虫歯(1)食後すぐの歯磨きは歯を溶かす?
「食後すぐの歯磨きは歯を溶かす」ことはないようですが、酸性の飲食物は歯を溶かすようです。
酸で歯は溶かされる
虫歯も歯についた細菌が作り出す酸で歯が溶けたものなので酸で歯が溶けるというのはそう驚くことではありません。
細菌が作り出す酸以外の酸でも口の中に生えている歯が溶けることがあるとは知りませんでした。
PubMedで検索するとソフトドリンクやライムジュース、レモン水などで歯が溶けた報告を見つけられます。
個々の論文を読むのは面倒なのでレビューだけで検索します。
左のカラムのText availabilityでFree full text availableのものに絞ると8本の総説まで絞り込めました。(便利な世の中になりましたねぇ、、、)
Occupational dental erosion from exposure to acids—a review
Wiegand A, Attin T.
Occup Med (Lond. 2007 May;57(3):169-76. Epub 2007 Feb 16.
Review. PMID: 17307767
バッテリーやめっき工場などでは酸にさらされる労働環境のために歯が溶けることがあるようです。
工場の環境や労働者への教育にもよるため国によっても歯が溶けている人の割合が違うそうです。
アフリカは労働者の100%、ヨーロッパや、韓国、日本では8-31%程度だそうです。
ワインテイスターや競泳選手についてはワインやプールの水の影響というにはデータが足りないとなっています。
対策としてはなるべく酸にさらされないようにすることだそうです。
The role of diet in the aetiology of dental erosion. - PubMed - NCBI
食物との関連を書いてありそうな論文も引用されていますが、なぜかFree Articleのリンクが見れませんでした。
歯がすりへる理由はいくつかあるがやはり酸による影響が大きい
A New Look at Erosive Tooth Wear in Elderly People
Bartlett D.
J Am Dent Assoc. 2007 Sep;138 Suppl:21S-25S.
Review. Erratum in:J Am Dent Assoc. 2008 Mar;139(3):252-3. PMID:17761842
Tooth Wearとは虫歯以外の理由で歯が磨耗した状態をいうようです。
まだ適当な日本語の学術用語がないそうです。(学会はなぜ命名しない?)
ここでは勝手に「歯耗」(しもう)と訳しておきます。(この訳を使っている日本語文献は全くないのでここだけの用語です。)
歯耗にはいくつか種類があります。
歯同士や食物などとの摩擦によるもの(咬耗症 - Wikipedia)
酸によるもの(酸蝕症 - Wikipedia)
ほかに、楔状欠損というのもあって、これはこすれる部位ではなく、歯が歯肉からでてくる根元のところがえぐれてくるものをいうようです。
楔状欠損は、歯に加わる力によって起こるひび割れが原因だとか歯磨き粉でこすり過ぎが原因とかいわれているそうですが、まだ結論がでていないようです。
とりあえず歯の根元の部分がえぐれてくるものをいうようです。
咬耗症の場合は実際に歯がこすられるところの歯が減ります。
実験的には歯磨き以外の影響がないと仮定すると、歯が1mm磨り減るには2500年かかるそうです。
歯磨き粉もつけて歯を磨いた場合は、100年で同じことが起こってしまうそうです。
(゜~゜)ふぅぅぅん
酸蝕症の場合は歯の側面なのどのツルツルした面がえぐれてきます。
オレンジをくわえたままにする習慣がある人とよく嘔吐する人の溶けた歯の写真が載っていますね。
嘔吐の人は胃酸が歯を溶かしていることになります。
先ほどの歯磨きの実験では、歯磨き粉に酸も加えて歯磨きすると2年で歯が1mm磨り減ってしまうそうです。
100年で起こることが2年に短縮!?
歯磨き粉つかうのはやめようかな。
普通の生活で歯に触れる酸は飲食物からもたらされる
レビューでは歯を酸にさらす飲食物として、柑橘類とそのジュース類、炭酸飲料を例にあげています。
酸は唾液で中和されます。
炭酸飲料のpHは低いのですが中和するに必要な唾液の量は、レモンなどの柑橘類を中和するのに必要な唾液の方が多いそうです。
あとは疫学的結果や治療適応についてレビューしてあります。
歯耗は加齢でも起こるので高齢者の方が程度がひどいのですが、75歳以上では悪化の進行が遅くなるという報告も多くあるそうです。
噛む力が弱くなるせいでしょうかね。
具体的にはどういう飲食物が歯を溶かすことになるの?
日本語文献を検索すると酸性にする飲食物についてのいろいろ研究報告があります。
第6号「ダイレクト エナメルダメージ」 - ライオン歯科衛生研究所
このPDFの2ページの最後に身近な食品のpHが載っています。
結構低いですね。pHの数値が低いということはより酸性ということです。
いくつか文献を読んだ結果、私が、ほほう、と思ったことをまとめます。
一応引用元を一番下に書いておきますがすべて専門家向けの文献です。
①口腔内pHは唾液中の重炭酸等の成分によりホメオスターシスが保たれている。[4]
②オレンジジジュース,コーラ,イオン飲料,食酢,ヨーグルトのうち、コーラがもっともpHが低い。しかしpH5.5にするのに必要な重層は食酢がコーラの10倍以上必要とした。飲用直後にもっとも唾液のpHがさがるのは食酢であった。1分後にはすべての種類において唾液pHは5.5以上になった。そのなかでもっとpHが低かったのはイオン飲料であった。イオン飲料は味覚刺激が最も少なく,唾液分泌刺激が少なかったためであると考えられた。[4]
③pHが5.4以下では,歯のエナメル質の脱灰が起こる。とくに乳幼児、学童期の小児にはpHの低いイオン飲料は蠕蝕へのリスクが高い。[3]
④酸蝕のリスクは,柑橘類を1日2個以上摂取すると37倍,清涼飲料水を週に4~6本以上摂取すると4倍,リンゴ酢を週に1本以上摂取すると10倍,スポーツドリンクを週に1本以上摂取すると4倍,となるといわれている。[2]
⑤清涼飲料や炭酸飲料を口の中に溜めて飲んだり,長い時間をかけてちびちび飲んだり,炭酸を抜くために炭酸飲料を口の中でグチュグチュしたりすると,酸の歯に対する接触時間が延長されることになり,酸蝕の危険性が増すことになる。[2]
⑥クエン酸が豊富な柑橘類や梅干しを口に入れ,これを臼歯部で咀囎する。これは柑橘類,梅干しの酸蝕作用と摩耗作用とが相乗効果を発揮し,臼歯部咬合面に対し,杯状もしくはクレーター状の酸蝕を生じることになる。[2]
⑦酸性の飲食物摂取後は、水や重曹(pH12)での含漱,牛乳(pH6.6)の摂取が推奨される。[1]
(ノ゚ο゚)ノ オオオオォォォォォォ-
心当たりがたくさんあります。
柑橘類は大好きですし、炭酸飲料をパソコンしながらちびちび飲むのも好き。
夏は自家性梅サワーを毎日飲んでいますけど、、、
①のホメオスターシスというのは恒常性 - Wikipediaといいますが、今回の場合は重炭酸が緩衝液 - Wikipediaとして働くってことですね、、、高校の化学で習ったはず、、、
ということで②で食酢が一番重層を必要とするのは酢酸がバッファーになっているからです。
唾液がでにくい飲食物は中和されにくいというのは、なるほど、と思いました。
⑥の状態は食後すぐの歯磨きはよくない、とか言っている場合ではないですね。
噛む力は歯磨きで加わる力の比ではありません。
今度からすっぱいものを食べた後やジュースを飲んだ後は牛乳を飲むことにした。
日本語文献引用元
[1] 歯が減る,溶ける-Tooth wearとは-
小林賢一*, 亀田行雄**, 石鍋聡***
*東京医科歯科大学歯学部附属病院高齢者歯科治療部, **かめだ歯科医院, ***いしなべ歯科クリニック
歯界展望 101(2): 266-280, 2003.(9)
[2] 酸蝕のリスクファクターとその修飾因子
小林賢一, 川上伸大
東京医科歯科大学歯学部附属病院回復系診療科
デンタルハイジーン 26(12): 1245-1249, 2006.
[3] 乳幼児のイオン飲料と齲蝕について
清水邦彦*1, 小川京*1, 森田渉*1, 石井克明*2, 加藤寛貴*2, 前田隆秀*1
*1日本大学松戸歯学部小児歯科学教室, *2和光堂株式会社研究開発部第一研究室
小児科臨床 59(5): 1007-1013, 2006.
以下は学会発表抄録
[4] 123 酸性飲料を飲用した後の口腔内pHの変化
倉持恵美1), 遠藤眞美2), 竹蓋道子3), 小倉千幸4), 川面恵梨子5), 宮澤裕美6), 中村広恵7), 堂本直美7), 伊藤梓8), 宮内知美8), 高柳篤史7)
1)茨城県歯科衛生士会, 2)九州歯科大学生体機能学講座, 3)日本大学松戸歯学部附属歯科衛生専門学校, 4)日本歯科大学東京短期大学, 5)深井歯科医院, 6)鈴木歯科医院, 7)高柳歯科医院, 8)日本大学松戸歯学部附属病院
日本歯科衛生学会雑誌 8(1): 211-211, 2013.
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